1.DXってなんだろう
いま、流行りのデジタル・トランスフォーメーション=DXという言葉。
「はて、IT化とはどう違うの?」
「ウチは業務をパソコンでやっているけど、それってDX?」
などなど新しい言葉に理解が追いつくのもなかなか大変なものです。
DXについて、経済産業省の定義によると、
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織・プロセス・企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
なのだそうです。
出典:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)
「なんやらようわからん!」という声が聞こえてきそうですよね。
これをもっとわかりやすく言い換えると、
『これからの時代を生き残るために、デジタル技術(ITと言ってもよい)を活用するのと同時に、これまでのやり方(商売の仕方と社内の慣習)も変える』
ということになるかと思います。
手書きの業務をシステムに置き換えるだけではDXとは言えません。それは単に楽になる、というだけで、自社の競争力が上がることにはつながっていません。
DXによる変化の事例をあげるとしたら、
☞Netflixで映画やドラマが見放題になった、スマホで音楽が聞き放題になった
・・・CDやDVDのレンタルショップが減った
☞Amazonや楽天などネット通販でモノを買う人が増えた
・・・本屋など小売店が減った
デジタルを活用した新しいビジネスが生まれた(社会が変化した)ことで、これまでのビジネス(本屋やCDレンタル)が成り立たなくなったという事例を私たちは実際に体験しているわけです。
インターネットの高速化やスマホの普及、SNSやYouTubeなどネットメディアの浸透など社会が変化することで、私たちの行動様式も変化します。しかも社会が変化するスピードも速くなり、自社の仕事の仕方も合わせていかないとやがて取り残されてしまいます。
「いやいや、ウチの会社にはITに強い社員はおらんし。面倒な業務が多くてもみんなで頑張ればこの先もやっていける」というような、DXが自分事には思えない方も少なくないはず。しかし、中小企業こそDX化で会社が強くなるとも言えます。NetflixやAmazonも最初は中小企業でしたし、彼らのビジネスは既存のビジネス(DVDレンタルや本屋)にインターネットを組み合わせただけですから。
2.小さなことから始めよう・・・〇〇の電子化をやってみる
世の中でDXが叫ばれているものの、
「何から手を付ければいいものやら」
「デジタル化といってもシステムへの投資にお金がかかるでしょう?そんなに大きな投資は難しいなあ」
という声が聞こえてきそうです。
そうはいっても、「電子申請」だったり「請求書の電子化」や「電子帳簿保存法」だったり、この数年で急速に「紙」を減らす動きが起きていることを感じませんか?
DXを強力に推進する政府は、特に行政への申請については電子申請を普及させようとしています。コロナの時にお世話になった給付金の申請をはじめ、補助金の申請、社会保険の書類提出などは「G-Biz」や「jGrants」といったシステムで電子申請することが可能です。
申請自体は、お役所への訪問や郵送でできますので、電子申請が必須というわけではありません。とはいうものの、お役所にいく交通時間や郵送にかかる時間やコストは全くの無駄な時間とコストです。申請書自体もワードやエクセルですから入力して出力してという作業をするより、電子申請システムに直接入力するほうが時間も通信コストもかからずお得です。
「お役所にいくのは別に苦じゃないよ」という優しい方も少なくはないでしょう。しかし、その習慣をまず変えることが大事です。お役所も電子申請を導入したからには窓口対応の手間や時間を減らしたいはず(お役人がきちんと働いているかどうか、監視しに行くという目的があるのでしたら行くべきです)。
「請求書の電子化」も浸透し始めました。こちらが紙の請求書にこだわろうとこだわるまいと、インターネットに関するサービスを利用すると、いまやほとんどが電子請求書だったり電子領収書です。NTTなど通信会社も請求書を郵送してもらうにはお金を支払わなければならなくなりました。請求書が紙でなければならない時代は過ぎており、この波に乗って自社の請求書も電子化すれば、「請求書をプリントアウトして、三つ折りして、封筒に入れて、郵便ポストにいれに出かける」という月末の業務負担もなくなります。
このような小さいことでも、普段の商習慣や行動を変えることがDXにつながっていくのです。
3.電子契約に必要なこと
最近、取引先から「契約書を電子署名できますか?」という要望が増えてきました。弊社も電子署名で契約を交わすことが珍しくありません。
電子契約のメリットといえば、「印紙税」という契約書に貼付しなければならない「収入印紙」のコストが不要なことです。「印紙税」は手形や領収書、建築請負や不動産取引の契約書などの「紙」に課される(謎の)税金です。契約金額によって課される印紙税の金額が異なりますが、負担感は小さくありません。「紙」に課税され、メールやFAXなら課税されないという不思議な税金であるがゆえ、電子契約による締結には課税されません。
それであれば「わが社も電子契約をやってみよう!」という意欲もわきます。
しかし、ちょっと待って。
契約書に押印するのは一般的に「会社実印」です。会社実印は、たいてい経営者が管理しており、一般社員は契約を締結することはできません。しかし、電子契約となると「ある問題」がでてきます。電子契約はメールでやり取りするので、「メールアドレス」が問題となります。
経営者の方から名刺をいただくと、意外と「全社共通のメールアドレス」(例えば、info@・・・)を利用される企業さんがいらっしゃることがあります。しかし、全社共通のメールアドレスは電子契約の捺印には使えません。メールアドレスを共用している社員のだれもが電子契約の捺印をすることが可能になってしまうからです。
会社実印はその会社の代表者が管理しているもの。電子契約の場合であっても代表者が管理しているメールアドレスであるべきです。こうした疑問から当社の顧問弁護士に「電子契約のメールアドレスはどうあるべきか」を質問してみました。
弁護士の回答を要約すると、
①代表者が名刺に記載するなどして固有のメールアドレス(法人アカウント、個人アカウントを問いません)を有している場合に、それで契約がなされている場合は特に問題はない
②共有アドレスや役職員の個人のメールアドレスで契約するという場合は、当該役職員の電子メールアドレスにて契約を締結することについて、代表者の記名押印のある確認書や委任状を取得する
ということでした。
②についてはちょっと手間がかかるので、電子契約の場合は①代表者の固有メールアドレスであること(かつ代表者の固有メールアドレスであることがわかるように名刺に記載する)というのがよさそうです。
また、GoogleのGmailのようなフリーメールアドレスもちょっと不安になりますよね。大手の企業との取引にあってはフリーメールアドレスを電子契約に使えないところもあります(セキュリティでメールが届かないことすらあります)。
こうしたことから、電子契約をスタートするにあたっては、
(1)企業の独自ドメイン、できれば「co.jpのメールアドレス」を取得する
(2)代表取締役の固有のメールアドレスを設定する
を、予め準備しておくとよいでしょう。
4.まとめ
中小企業が生き残るためには時代の変化に素早く対応することが必要です。
インターネットやスマホの普及という大きな変化をチャンスと捉え、仕事の仕方や習慣を見直すことこそが、変化への対応です。世の中を変えることよりも自分を変えることのほうが簡単ですから。
DXというと大きなシステム投資が必要と身構える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、世の中の仕組みがますます電子化されていくので、それらを積極的に利用することがまずはDXの第一歩と言えるでしょう。
小さいことですが、①インターネット上で自社の独自ドメインを取得する=インターネット上の住所のようなもの、②独自ドメインで自分固有のメールアドレスを設定する、という2つのステップから、DXはスタートします。