最低賃金引上げと人手不足を乗り越えるために——中小企業に求められるDX活用の知恵

近年、最低賃金の引き上げが続いており、特に中小企業にとって人件費の上昇は経営を圧迫する大きな要因となっています。加えて、人手不足によって中途採用が思うように進まず、限られた社員への業務負荷が高まるという、二重の課題に直面している企業も少なくありません。こうした経営環境の変化に対応するためには、デジタル技術の活用、いわゆる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進がカギとなります。

本コラムでは、最低賃金引き上げの影響と、DXの有効な活用法、中小企業がDXを推進する際のコツ、そして関連する助成金の活用について解説します。


1. 最低賃金の引き上げが経営に与える影響

最低賃金は労働者の生活を守る重要な制度ですが、企業側にとっては人件費の増加という現実的な課題を生みます。特に製造業やサービス業、小売業など人手を多く必要とする業種では、1人当たりのコストが上昇することで、利益率が圧迫され、価格転嫁が難しい中小企業にとっては死活問題になりかねません。

さらに、最低賃金の上昇に連動して、既存社員の給与体系の見直しや、賃上げによるモチベーションの維持といった課題にも直面します。中小企業ではこのような変化に柔軟に対応できるだけの余力が乏しく、結果として採用の抑制や離職率の増加といった副作用が起こるケースも増えています。

 熊本県の最低賃金引上げ推移状況についてこの15年間をグラフにしてみると、令和5年、6年はそれぞれ前年同期比で5.3%、6.0%と急上昇しています。10年前の平成27年と令和6年を比べると37.2%も増加しています。売り上げも同様に年率5%以上、増加すれば人件費負担を吸収できるのですが、販売単価を引き上げるのはなかなか容易ではありません。

 


2. 人員不足をおぎなうためのDX活用方法

こうした状況下で注目されているのが、DXによる業務の効率化です。DXを活用することで、少ない人員でも高い生産性を確保できる体制づくりが可能になります。例えば、以下のような取り組みが有効です。

  • RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入:定型業務を自動化し、従業員がより創造的な仕事に集中できる環境を整えます。
  • クラウド型会計・勤怠管理ツールの活用:経理・労務といったバックオフィス業務を省力化し、作業ミスも減らすことができます。
  • チャットボットの導入:顧客対応や社内問合せ業務の一部を自動化することで、対応時間の短縮とサービス品質の維持を図ります。
  • リモートワーク環境の整備:柔軟な働き方を可能にし、地方や子育て中の人材の活用にもつながります。

これらの手段は、いずれも「人がやらなくても良い仕事」を機械やソフトウェアに置き換えることで、限られた人材で最大限の成果を出すことを目的としています。


3. 中小企業がDXを推進するためのコツ

DXと聞くと「難しそう」「費用がかかりそう」と構えてしまう中小企業経営者も少なくありません。しかし、DXの本質は高度なIT導入ではなく、「今ある業務の無駄を見直し、より良い形に変えていくこと」です。次のようなステップを踏むことで、無理なくDXを進めることができます。

  • スモールスタートを意識する:いきなり全社導入ではなく、1つの部署、1つの業務から始めて成果を確認し、少しずつ範囲を広げていくのが効果的です。
  • 現場の意見を取り入れる:現場の課題や悩みに即したツール導入が、DXの成功には不可欠です。トップダウンではなく、現場との協調を大切にしましょう。
  • ITツールを“人を減らす手段”ではなく“人を助ける手段”と捉える:DXは人材を代替するものではなく、人がより価値の高い仕事に集中するための支援です。
  • 信頼できるITパートナーと連携する:自社内にITの専門家がいない場合は、外部の支援機関やITベンダーの力を借りることも一つの手です。

4. DX導入と最低賃金引上げにともなう助成金の活用

国や自治体は、中小企業のDX導入や人件費負担の軽減を目的とした各種助成金制度を設けています。こうした制度を積極的に活用することで、導入コストを大幅に抑えることが可能です。代表的な制度は以下の通りです。

  • IT導入補助金:業務効率化を目的としたソフトウェア導入費用などの一部を補助(通常枠:補助率1/2、最大450万円)。クラウド会計、受発注管理ツール、RPAツールなどが対象。
  • 業務改善助成金:事業場内の最低賃金を引き上げる企業に対し、設備投資(業務改善や省力化に資する機器導入など)に要する費用の一部を助成。
  • 人材開発支援助成金:DX人材の育成や、社員のITスキル向上を目的とした研修費用などを支援。

助成金の多くは申請手続きや書類準備に一定の手間がかかるものの、専門家や商工会議所、地域の支援機関を活用することで、ハードルを下げることが可能です。特にIT導入補助金は、DXの第一歩として取り組みやすい制度の一つです。


おわりに

最低賃金の上昇と人手不足という現実に直面する中小企業にとって、DXは単なる流行語ではなく、生き残るための現実的な選択肢です。「人が足りないからできない」ではなく、「人が足りないからこそ仕組みを変える」ことが、これからの中小企業経営には求められています。補助金を活用しながら、できることから一歩ずつ、未来につながる変革を進めていきましょう。

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