
1.「予想もしていなかった浸水」
熊本の皆様におかれましては、この8月の集中豪雨による影響はいかがでしたでしょうか? なかには浸水などの被害に遭われた方もいらっしゃると存じます。
被災された皆様には心よりお見舞いを申し上げますとともに、一日も早い復旧を願い、ご息災をお祈りいたします。
今回の記録的大雨により、熊本県下にて住宅は5500棟以上、農林水産関係は151億円以上の被害が発生したそうです。
弊社のスタッフも自宅が浸水し、夜中に緊急避難といった事態がおきました。また、お取引先のなかには事務所の浸水被害に遭われたお客様が数軒おられます。
河川近くの地域で台風による洪水という記憶はあるのですが、集中豪雨による内水氾濫などでいままで水害が発生していなかった地域において浸水被害が発生しています。近年の地球温暖化やそれにともなう海水温の上昇などにより、以前にも増して雨量が激しく増加しているようです。河川が氾濫せずとも、雨水溝や下水の排水能力を超えた雨の量が降り、低い地域に水が集中するなどこれまでの経験が通用しない時代を迎えたということなのでしょう。
こうした万が一の事象に備え、特に事務所機能が1階にある会社の場合は水害対策をおこなったほうがよいでしょう。事務所内にあるパソコンやサーバなどのシステム、ルーターやハブなどネットワーク機器が浸水して復旧できなかった場合、業務の再開に日時を要する事態に陥るからです。
2.水害からPC(システム)を守るには?
まず、取り組むべきは自社のリスクを正確に把握することが重要です。
(1) ハザードマップの確認
最初にやるべきことは、自治体が公開しているハザードマップの確認です。水害リスクに関するハザードマップには、河川の氾濫だけでなく、内水氾濫のリスクも示されています。浸水深がどれくらいになる可能性があるのか、自社の社屋がどのリスクエリアに位置しているのかを確認しましょう。
こちらは熊本市が公開しているハザードマップです。
熊本市ハザードマップ
(2)社屋の現状把握
次に、社屋の現状をチェックします。
⇒サーバーやネットワーク機器の設置場所: 床からどのくらいの高さに設置されていますか? 浸水深が想定される場合は、より高い場所へ移動させる必要があります。
⇒LAN配線の経路: LANケーブルは床下や壁の中に配線されていることが多いですが、浸水した際に水に浸かるリスクがあります。
(3)システムを守るための具体的な対策
リスクを把握したら、次は具体的な対策を講じます。中小企業が限られた予算と人員の中でできる、現実的な対策を3つのフェーズに分けてご紹介します。
【フェーズ1】物理的な保護
これは、浸水から直接的に機器を守るための対策です。
A. 機器の嵩上げ
最も基本的かつ重要な対策です。パソコン、サーバー、ルーターなどの機器は、できる限り床から高い位置に設置しましょう。
⇒サーバーラック: サーバーは専用のラックに収納することで、床からの距離を確保できます。
⇒キャスター付きラック: 普段からキャスター付きのラックに機器を載せておけば、いざという時に素早く移動させることができます。
B. LAN配線の見直し
床下や壁に配線されたLANケーブルが水に浸かると、通信機能が停止しますので、可能な範囲でLANケーブルを天井や壁の高い位置に配線し直すことを検討しましょう。
あるいは、無線LANの活用も有効です。社内の一部を無線LAN化することで、有線LANケーブルの露出を減らすことができます。
【フェーズ2】データの保護と業務継続
物理的な対策と並行して、データと業務を守るための対策も不可欠です。
A. クラウドサービスの活用
サーバーやデータを社内に置く場合でも、クラウドへデータをバックアップする移行することは、浸水対策として極めて有効です。顧客情報、会計データ、業務システムなどをクラウドに移行すれば、社屋が浸水してもデータ自体は安全なクラウド環境に保管されます。
B. バックアップの徹底
クラウドへの移行が難しい場合でも、データのバックアップは絶対に怠ってはいけません。データは3つのコピーを作成し、2つの異なるメディア(内蔵HDDと外付けHDDなど)に保存し、1つは物理的に離れた場所(社外の保管庫、自宅など)に保管するという「3-2-1ルール」を推奨します。これにより、社屋が浸水しても、社外のバックアップからデータを復旧できます。
3.水害に被災した場合の対策は?(復旧)
万が一、水害に事務所が被災した場合、できるだけ短期間でシステムを復旧する必要があります。
(1)優先順位付けと連絡先リストの作成
システム・機器の優先度を明確化し、業務継続に直結するサーバ、ネットワーク機器、通信回線を「最優先復旧対象」と定義します。
インターネット回線、光回線モデム、ルーターなど主にインターネットに関わる納入業者(以下、ベンダー)、UTMなどセキュリティ機器のベンダー、社内のLAN環境のベンダー、また電話回線のベンダーなど様々なベンダーが関わるケースがあります。
それぞれどこに連絡すればよいのか、会社名・担当者・連絡先(電話番号やメールアドレス)のリスト化をしておくとよいでしょう。
また、インターネット回線の復旧がもっとも優先度が高く、その日程次第でネットに関わるベンダーによる復旧作業調整をおこなう手順となります。
(2)データ保護・バックアップ
システム復旧の要はデータ保全です。バックアップしているデータの復旧手順をマニュアル化しておくとよいでしょう。データ復旧に時間がかかる場合は、受注や売上など一時的に手書きの伝票で対応することになります。そうした記録の方法も事前に準備しておくと復旧作業がスムーズになります。
(3)代替環境の確保
災害発生時は、ネットワーク障害に備え、モバイル回線ルータを常備しておくとよいでしょう。ネット回線スピードは落ちるものの、取引先との連絡経路確保を最優先とした場合、受注の一時ストップなど緊急連絡として利用できます。
(4)復旧手順のマニュアル化
障害発生から復旧までの流れを標準手順書(BCPマニュアル)として整備します。例:①安全確認 → ②被害状況の記録 → ③代替回線・クラウド切替 → ④機器乾燥・交換 → ⑤オンプレ復旧。担当者・連絡網を明記し、平時から訓練を実施します。
年1回以上、浸水想定のシミュレーション訓練を行い、復旧時間を測定します。課題を洗い出し、バックアップ体制や代替手順を更新し続けることが短期復旧につながります。
4.まとめ
集中豪雨による浸水被害は、もはや「いつか起こるかもしれない」という漠然としたリスクではなく、「いつ、どこで起きてもおかしくない」現実的な脅威です。特にこれまで被害がなかった中小企業にとっては、事前の対策が事業の命運を分けると言っても過言ではありません。
ご紹介した対策は、決して大企業だけのものではありません。まずはハザードマップでリスクを確認し、パソコンやサーバーを床から少しでも高い位置に置くことから始めてみませんか?小さな一歩が、将来の大きな損失を防ぐことにつながります。
中小企業こそ、限られたリソースを最大限に活用し、レジリエントな経営体制を築くことが求められています。今回のコラムが、皆さんの浸水対策を始めるきっかけになれば幸いです。
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