新システム構築に「ものづくり補助金」を活用

  中小企業が活用できる補助金はいろいろありますが、新しい取り組みをおこなうときに適しているのが「ものづくり補助金」です。正式名称は、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」で、令和2年3月10日の公募開始以来、通年で公募を行っており、現在、第21次公募まで数えています。

    中小企業にとって使い勝手のより補助金ですので、補助金申請にチャレンジしたことがある方も少なくないでしょう。ただ、意外と審査に通らなかったり、補助金の使途や要件が厳しかったりしていたのも事実です。年によっては採択率(審査の合格率)が低かったり、あるいは高くなったりと、申請するタイミングによって異なりますので、過去に申請しても通らなかった方でも再チャレンジする価値はあると思えます。

 新しい製品を作るというテーマだけではなく、新しい販売方法に取り組む、あるいは新しいサービスに取り組む、というテーマで自社のシステムを見直す機会がありましたら、「ものづくり補助金」の活用を検討してみてはいかがでしょうか?

 本制度の2025年度版では、補助金を活用した事業化により収益が得られた場合に国庫に返納する義務(収益納付)を求められないこととなりました。これは中小企業が収益を事業拡大や成長戦略に活用できるという点で、大きな変更点です。

 なお、類似する補助金としては「IT導入補助金」という制度があり、こちらは主にパッケージソフトの導入に適しています。自社オリジナルのシステムを作らなければならない場合は、「ものづくり補助金」が向いています。

1.補助対象の内容(製品・サービス高付加価値化枠)

 例えば、取引先との受発注のやり取りがLINEあるいはWEBサイトで多くなり、顧客サービス向上のためにLINEによる受注を販売管理システムに自動的に取り組みたいといった場合、モノづくり補助金の「製品・サービス高付加価値化枠」の要件に該当する必要があります。
 次表が概要となります。

 

項目概要
事業概要革新的な新製品・新サービス開発の取り組みに必要な設備・システム投資等の支援。
革新性の定義顧客等に新たな価値を提供することを目的に、自社の技術力等を活かして新製品・新サービスを開発することを指します。例えば、顧客への新しい購買体験や、受注プロセスの劇的な効率化などが該当します。
補助上限額従業員数に応じて、750万円~2,500万円が上限となります(大幅な賃上げ特例適用外の場合)。
補助率中小企業者は原則1/2、小規模企業者は2/3です。
特例最低賃金の引き上げに取り組む場合、補助率が2/3に引き上げられる特例措置があります。

2.補助対象者

 本補助金の補助対象者は、日本国内に本社及び補助事業の実施場所を有する中小企業者等に限られます。

貴社は「卸売業」を営む中小企業として、以下の定義を満たす必要があります。

区分資本金または出資総額常時使用する従業員数
中小企業者(卸売業)1億円以下100人以下
小規模企業者・小規模事業者5人以下

【重要な留意点】

• 従業員数: 応募申請時に常時使用する従業員が0名の場合は、申請できません。

• 事前準備: 申請はインターネットを利用した「電子申請」のみで受け付けられ、事前に「GビズIDプライムアカウント」の取得が必須です。

3.補助対象要件

 申請においては、補助事業終了後3~5年の事業計画を策定し、以下の基本要件をすべて満たすことが必要です。

【基本要件(必須)】

要件目標値概要
① 付加価値額の増加年平均成長率+3.0%以上営業利益、人件費、減価償却費を足した「付加価値額」の増加率が目標値を達成すること。
② 賃金の増加年平均成長率+2.0%以上(給与支給総額) または 1人あたり給与支給総額の年平均成長率が地域最低賃金年平均率以上従業員及び役員それぞれの給与支給総額または1人あたり給与支給総額について、いずれか一方でも目標値を達成する必要があります。
③事業所内最低賃金水準毎年、事業実施都道府県の最低賃金+30円以上の水準補助事業の主たる実施場所で最も低い賃金を、毎年達成する必要があります。
④従業員の仕事・子育て両立要件一般事業主行動計画の策定・公表従業員数が21名以上の場合のみ、次世代法に基づく一般事業主行動計画を策定し、「両立支援のひろば」に公表することが必要です。

【返還義務に関する特記事項】 

 基本要件②(賃金)または③(最低賃金水準)を達成できなかった場合、原則として補助金の一部または全額の返還を求められます。ただし、付加価値額が増加しておらず、かつ企業全体として事業計画期間の過半数が営業利益赤字の場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、返還を求められないことがあります。

4.補助対象経費

 新受注システム構築(製品・サービス高付加価値化枠)において、特にシステム開発に関連する主要な補助対象経費は以下の通りです。

 なお、本補助事業では、単価50万円(税抜き)以上の機械装置・システム等を取得して納品・検収等を行う設備投資が必須です。

【システム構築関連の主要経費】

① 機械装置・システム構築費(必須)

 新システム開発において、中心となる経費です。

• 専用ソフトウェア・情報システムの購入・構築、借用に要する経費。

   (「借用」はリース・レンタルを指し、補助事業実施期間中に要する経費のみが対象)

• 機械装置又は自社で機械装置を製作する場合の部品の購入費。

• 購入した機械装置・システムと一体で行う、改良・修繕又は据付けに要する経費。

② クラウドサービス利用費

• 本事業のために利用するクラウドサービスやWEBプラットフォームの利用費のみが対象。自社の他事業と共有する場合は補助対象となりません。

•サーバーの領域を借りる費用や、サーバー上のサービスを利用する費用等が補助対象となります。

• サーバー購入費・サーバー自体のレンタル費等は対象になりません。

•クラウドサービス利用に付帯する、ルータ使用料・プロバイダ契約料・通信料等の本事業に必要な最低限の費用は補助対象となりますが、パソコン、タブレット端末、スマートフォンなどの本体費用は対象外です。

③外注費

~新製品・新サービスの開発に必要な加工や設計(デザイン)・検査等の一部を外注(請負、委託等)する場合の経費。

•システム構築に係るサイバーセキュリティ対策のためのペネトレーションテスト(侵入テスト)や脆弱性診断(セキュリティ診断)の外注費も対象となります。

④専門家経費

~本事業の実施のために依頼した専門家に支払われる経費です。

•学識経験者、兼業・副業、フリーランス等の専門家に依頼したコンサルティング業務や技術指導、助言(国内旅費を含む)が補助対象となります。

•コンサルティング業務には、製品・サービスの設計時のセキュリティ設計に関するアドバイス(JC-STARラベル取得に係るものを含む)が含まれます。

•謝金単価の上限が定められています(例:中小企業診断士、ITコーディネータは1日4万円下)。

• 上限額は補助対象経費総額(税抜き)の1/2です。

• 申請時に活用した事業計画書作成支援者は、専門家経費の補助対象外とされます。

5.申請書作成のポイント

(1)新システム構築をテーマとした場合

 質の高い事業計画書を作成することが採択を受けるために最も大切です。特に、新システム開発においては、以下の審査項目を踏まえた計画が求められます。審査は、外部有識者による書面審査などにより行われます。

①事業性・革新性(新製品・新サービスの優位性)

・開発する新システムが、既存の競合サービスや代替手段と比較して、価格的・性能的にどのような優位性・収益性を有しているか。

・顧客ターゲットが明確であり、顧客ニーズの調査・検証がされているか。

・単なる既存業務のデジタル化ではなく、顧客に新たな価値を提供する革新的な開発であること。

②経営力・実現可能性

・本事業(システム開発)が、外部環境と内部環境(ヒト・モノ・カネ・情報)の分析を踏まえた、中長期的な経営目標と効果的に連動しているか。

・新システムに必要な技術力、社内外の体制(人材、専門的知見)、資金調達計画が明確かつ妥当か。

③費用対効果

   投入する補助金交付額に対して、想定される売上・収益の規模等、費用対効果が高いことが明確に示されているか。

(2)加点項目

 以下の取り組みを行う事業者に対しては、審査において加点が行われます。例えば同じような点数になった場合、加点項目の差で採択されるかの分かれ道となります。

 主な加点項目は次の通りです。

No.加点項目概要提出書類例
1経営革新計画申請締切日時点で有効な「経営革新計画」の承認を取得している事業者。承認書の写し
2パートナーシップ構築宣言「パートナーシップ構築宣言ポータルサイト」において宣言を公表している事業者(応募締切日前日時点)。システム入力
3DX認定申請締切日時点で有効な「DX認定」を取得している事業者。システム入力
4健康経営優良法人認定「健康経営優良法人2025」等に認定された事業者。システム入力
5事業継続力強化計画申請締切日時点で有効な「(連携)事業継続力強化計画」を取得している事業者。システム入力
6賃上げ補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、給与支給総額の年平均成長率を4.0%以上増加、かつ事業所内最低賃金を毎年3月、地域別最低賃金より+40円以上の水準を満たす目標値を設定し、表明している事業者。システム入力

6.最後に

 毎年、1年を通して3~5回ほどの公募がおこなわれます。令和7年度の公募はおそらく完了しているものと思われますが、毎年、補正予算においても中小企業支援の施策が実施されますので、令和8年1月の前後で公募が開始されると思われます。

 加点項目については、公募が始まる前より準備を始めておくことが大切ですので、新システム構築を検討されている方はものづくり補助金の活用も念頭においておくとよいでしょう。

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