税金について考える~森林環境税という新税~

森を活かすしくみ(1)

出典:林野庁 森林環境譲与税のパンフレット

1. 2024年から森林環境税の徴収がスタート

 最近、とてもよく話題にのぼる「103万円の壁」。賃上げで給料が上がっても社会保険や税金で手取りがなかなか増えないこの数十年、世の中では税金の在り方とその使い道に対する関心が高まっています。私たちが気付かないうちに増えるのが税金というもので、それが社会維持に必要だとはわかっていても、その使い道に納得がいかないことも少なくないのではないでしょうか。

昨年(2024年)は、新たな税金として「森林環境税」が導入されました。「森林環境税」は住民税に上乗せされる仕組みなので住民税のイメージですが、国民に一律で年間1000円を課すとなっているので国税です。

 日本の森林面積は約2,500万ヘクタールで国土の約67%を占めており、その整備は不可欠です。森林は水資源の涵養として、また近年はカーボンニュートラル達成のためのCO2吸収機能、バイオマス発電の燃料源として重要な資源といえるでしょう。

 ところが、安価な外国産材の輸入に押されて国産材の価格が低迷して林業が儲からない商売となり、結果的に森林を整備する林業従事者も不足する事態が続き、国内の森林が荒れていくという悪循環がこの数十年、続いています。

 森林資源を保全するために税金を投入するというロジックに異議を唱えるわけではありませんが、森林環境税という仕組み自体には少なからず課題があるという気がします。


2.二重課税となっていないか!?

制度設計

出典:林野庁 森林環境税及び森林環境譲与税 

https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/kankyouzei/kankyouzei_jouyozei.html

 自治体によっては独自の課税として森林整備のための地方税を既に徴収しているケースがあります。例えば、三重県では平成14年度から県独自の「みえ森と緑の県民税」として住民税に1000円を上乗せしており、さらに国の森林環境税が1000円分上乗せされて、年間2000円の森林整備の税金が徴収されることとなり、同じ内容の税金が2つ課税されるとして「二重課税ではないか!?」と県議会で紛糾しているそうです。

 また、神奈川県では水環境保全税(上乗せ300円+所得税0.05%割増)という県税に加え横浜市の「横浜みどり税」(個人年間900円、法人は市民税に9%上乗せ)が課税され、三重課税の構造となっています。

 我が熊本県では「水とみどりの森づくり税(年額500円)」という独自の森林課税がありますが、国の森林環境税1000円が増加されたのに対して、ほかの項目で県民税と市民税が1000円差引されてプラスマイナスゼロに収まっています。

 このように自治体によって、森林環境税(国税)と自治体独自の課税(県民税・市民税)の対応がまちまちですが、税金を取る側の仕組み(徴税)が住民にわかりづらくなっている点に課題を感じます。こうした徴税の仕組みを意識しないまま、税金を徴収されている方が大半ではないでしょうか?


3.森林関連税の配分や使途について

森林を保全するために税金を投入すること自体は、日本の国土保全という観点から異論はないのですが、その配分方法や使途について検証することも重要です。

新たにスタートした森林環境税の仕組みは、自治体が徴収し、自治体から国にいったん集まり、国が「森林環境譲与税」として自治体に再配分するというものです。配分方法は、私有人工林面積・林業就業者数・人口の3つの基準となっています。

人口基準の比重は25%もあるため、森林が少なくて人口の多い都市部の自治体にもきちんと配分されています。2023年度は総額500億円の森林環境譲与税が都道府県と全国市町村に配分されたのですが、配分額が最も多いのは森林率が8.4%しかない横浜市で4億円となっています。しかし、森林面積の少ない横浜市では学校関連施設への木材利用推進で年間2億円前後を活用していますが、使い切れないため2億円前後がこの2年積み立てされています。

一方、森林面積率の高い自治体は林業政策に携わる職員の数が少なく、事業予算を執行する能力も限られていることが課題で、納税者としては税金の使途が適正かどうかをチェックすることが不可欠です。ある自治体においては森林整備と関連性が薄い事業に予算の3分の1が充当されていました。

 森林保全とそれを支えるための担い手づくりという理念から森林環境税はやむを得ないとは思いますが、税金の使い道がその理念に適っているかどうか、不断のチェックが欠かせません。

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